良寛と遊ぶ-2001/9/17

前回の『良寛と遊ぶ』 で書いた

心月輪の写真を見つけたので

載せときましょう。

こころ洗われる文字で、

良寛の思いが伝わる。

良寛は、たしかに月のように

まんまるの澄んだ心を示したのでしょう。

しかし、今日はもうひとつ別のことに気付いた。

月には輪郭がないことです。

はっきりした境界線がどこにもないのに

しっかりとそこに存在し、

しかもこの上なく美しい。

己を守る防壁も、

己が溶け出すのを防ぐ壁をももたない。

それでいてしっかり、個を保持している。

一般に個はのように

円の輪郭で象徴化できる。

これを、インドではマンダラという。

個と世界全体が同心円のマンダラで、

個が全体で、全体が個である図式を

密教において見たことがあると思うが、

一般には、この円の輪郭が自己を保持している

城壁の役目をしている。

この輪郭がのように薄く、

途切れ途切れになれば、

自己は危機を感じる。

(そういった渾沌を見る感覚を、

サルトルは“嘔吐”といったに違いない。)

けれどもそれは、

ほんとうに目醒めるための一過程。

他を拒まず、全体とひとつに

なるための産みの苦しみなのだと思う。

(私は体験した事がないから、信じるのみ)

 

今、2001年の初秋

そういった状況に、私の友人がある。

彼女は、自分自身の力で、

今までの守ってきた殻を突然やぶってしまった。

すると突然いろんなものが

混然として見えてきたに違いない。

歓喜と絶望がいりまじり、

どうにもならないような自己を

感じているにちがいない。

溶け出す自己。忍び寄る他者。

円は乱れて歪み、光と闇の区別さえもつかない。

そんな彼女をどうして私などが助けられようか。

私はまだ岸辺。彼女は大海へ旅立ってしまった。

伝えられることなら『月を見て!』とだけ。

月は輪郭をも持たず、他を拒まず、自ら輝き、

この上なく美しく、しかも

しっかりと個を保持している。

 たぐいまれなる存在。それが月。

 

良寛が嫌ったのは輪郭。

僧侶という輪郭。

茶人という輪郭。

知識人という輪郭。

数寄者という輪郭。

 

そういった輪郭を良寛はとても嫌った。

だから逆に月がだい好きだった。

以下は数日前、

『日々のでんチャン』に書いたものです。

心月輪

親戚付き合いの家に邪魔していた時
下男が鍋蓋を割ろうとしているのを見て
哀れみ、それに字を書いた。その鍋蓋は、
その家の家宝として伝えられている。
(新潟県指定文化財)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海道貴哉

上の陶のように、
彼女は、4足で大地に立ち、
しっかと腕を組み、目をとじ、
口を結んで
どんと存在していると
自他ともに思っていたが・・


清水知子

自分自身の蛇が、自分の殻をやぶり
そのために自分自身の存在を
見失ったかに思ったのだが・・
それはあらたなる船出だったのです。

処女航海のはじめの船酔い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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最近、曇り空が多くお月様がみえなくて残念です。

私の好きな良寛様のほんとうのお友達はお月様だったと思います。

多くの月を歌に詠んでますが、辞世の歌には月がないことに昨日気付きました。

 

形見とて 何か残さん 春は花 山ほととぎす 秋はもみじ葉

 

これに対して良寛が敬愛した道元の歌にはこんなのがある。

 

春は花 夏ほととぎす 秋は月 冬雪さえて すずしかりけり

 

この道元の歌を踏まえていたにもかかわらず、

あえて秋の月を良寛ははずした。

良寛様には、月が秋だけのものと思えなかった。

いつもいつもいつも寂しいとき、一緒にいて

微笑んでくれたのがお月様だったのだから。

だから形見になんて残せません。

お月様のもとに昇天したかったのでしょう。

私はお月様を見ると、無き母と

良寛様を思います。

 

いい月が出たら妻といっしょに月見酒をしてみようと思う。

--------------------------------------------2001年9月8日『日々のでんちゃん』

 

この日以来いまだに、お月様にお目にかかっていない。

今度にっこり、お月様が出たら、

殻をやぶってしまった友人もまた、月見酒などして

『心月輪』のここちに酔ってもらいたいものだ。

 

 

 

古くからインドでは、

ミルクを長い間、

月光にあて、

それを飲んで、

夏の火照った身体を

冷ましたという。

月光は熱を冷ます効果があると

今も信じられている。

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